育児サポーター☆リンゴちゃん
私は、ミユを3年間育ててきて、感情的になったり、声を荒げて叱る、というようなことは、ただの一度もしたことがありませんでした。
しつけの中で、厳しくするべきところは、厳しくは言ってきましたが、感情的になりそうでも、一呼吸おいて、理性を取り戻してから発言することを心がけてもいましたし、そのことを必死にやっていたわけではなく、ちっちゃなミユを見ていると、それがごく自然に出来ました。
ところが、この夏にリクトが生まれてからは、それまでちっちゃな赤ちゃん、子供、と思っていたミユが、急にしっかりして見え、リクトのことは赤ちゃん扱いをして、話しかける声も高くなるのに、ミユに対しては、大人に話しかけるのと同じ調子で話しかけ、二人の子育てと家事、仕事を必死に両立させる毎日の中、イラついた時には、そのまま感情的に怒鳴ったり、叱ったりしてしまうことも増えてしまいました。
そんな私の態度がいけなかったのか、自立心が強くなっていく時期であることも手伝ってか、最近のミユは、とにかく生意気で、それまでなら、きちんと出来ていたことや、素直にお返事できていたことも、やらなくなってしまうことが増えてきました。
あんなに可愛がっていた弟のリクトがギャァ~ギャァ~泣いていても、知らん顔で遊びに夢中だったりもするし。
もう私の怒鳴り声に慣れてしまったのかもしれない・・・。
親に好都合ないい子にするつもりはありませんが、交通安全ルールや、これから集団生活を始めるにあたって、人に迷惑をかけないように守るべきことや、思いやりの心で行動すべきことなど、そういうことで、教えてあげたいこと、きちんと、お話を聞いて欲しいことは山ほどあるというのに・・・。
このままじゃいけないなぁ、と頭を悩ませていたある日、一緒にお風呂に入って、湯船の中で、いつもとは違う人形のおもちゃで遊ぶ機会がありました。
小さなお人形で、そのキャラクターの名前は分からなかったのですが、頭にリンゴをかぶっていたので、私が勝手にリンゴちゃん、と名づけました。
「こんにちは!私リンゴちゃんよぉ♪あなたのお名前は!?」
などと、いつもより1オクターブ位高い声で、やさしく話しかけると、ミユは思いがけず、それにのってきて、
「わたしはみゆちゃんよ!ねぇ~、いっしょに、あしょびましょおかぁ~!」
などと上機嫌で答えながら、まるでおままごとや、お人形ごっこをしているような調子で、リンゴちゃんと、ミユの、楽しげな会話が始まりました。
「ねぇねぇ、ミユちゃん!弟のリクト君が泣いている時は、どうするの?優しく出来るぅ~?」
などと聞いても、
「リクトくんがないてたら、イイコイイコして、ユラユラしてあげるでしょ!」
と、最近はやりもしていないことを得意気に答えてくれ(笑)、楽しい入浴タイムを過ごしました。
その日、お風呂から上がって、私が夕食の支度をしていると、リクトが泣き出しました。
すると、いつもなら、自分が遊びに夢中だと、知らん顔だったはずのミユが、手にガラガラを持ってリクトに駆け寄り、
「リクトくぅ~ん!な~か~な~いでっ!おお~ヨチヨチ♪」
と言いながら、ベビーラックを揺らし、ガラガラを鳴らしながら、リクトをあやし出したではないですかっ!
しばらく見慣れなかった光景に驚きつつも嬉しく思い、
「ミユちゃん、ありがとう!マミィが行くから、遊んでてもいいよ!」
と声をかけたのですが、ミユは、
「リンゴちゃんとおやくしょくしたでしょ♪おねえちゃんだから!ねっ♪」
と言いながら、結局、途中だった夕食の支度が全部済むまでの数分間、ずっとリクトの側について、あやし続けてくれました。
恐るべし、リンゴちゃん
それ以来、ミユは、お風呂でリンゴちゃんとおしゃべりするのを、とても楽しみにするようになりました。
お風呂に入っていない時でも、ふと思い出しては、
「リンゴちゃぁ~ん」
と呼びかけたり、
「リンゴちゃんとおやくしょくしたんだよ!」
と話してくれるようになりました。
本当は同じ言葉なら、リンゴちゃんではなく、母親である私の言葉を聞いて欲しいので、少々、複雑な気持ちではあるのですが・・・。
でも、ミユも、リンゴちゃんの声の主が私であることは理解しているようなので、もしかしたら、
「リンゴちゃんになる時は、マミィもいつもより優しい♪」
とでも、思っているのかもしれません
バタバタとした毎日の中で、気持ちの切り替えが難しくなってきている私にとっても、リンゴちゃんは頼もしい救世主!
時にはリンゴちゃんという仮の姿を借りてでも、親子の会話を楽しく深く、繰り広げていけたらいいなぁ、と思います。